優秀賞
『言葉』を言える人
その人から貰う言葉は、ありふれた言葉だったが、心のこもった美しい言葉だった。その人は中学の先生だった。国語の先生なのに簡単なありふれた言葉で、でも、しっかりと想いを私達に伝えていた。私は小難しい言葉だけが美しく想いを伝える『言葉』だと思っていた。でも、違った。短くありふれた言葉で書かれた先生からの卒業の手紙は、3年間の日々をいとも簡単に、事細かに思い出させる美しいものであった。自然と涙が出るものだった。手紙でも先生は先生であった。最後まで教えてくれていた。言葉は、相手の心に届いてこそ『言葉』だと言うことを。相手の心に届かない言葉は、文字に過ぎないと言うことを。私は救命医になりたい。忙しいのは目に見えている。でもきちんと患者や家族に『言葉』を言い、『言葉』でも寄り添える医師になりたいと思う。先生が私達にしてくれたように。そして、先生に会って一言伝えたい。「ありがとうございます。」と。
(審査員より)
ありふれているが、心がこもった美しい言葉。これが大朏さんの言うところの『言葉』の意味である。実に上手い文である。その短い文の中で大朏さんは自分の伝えたい「なりたい大人」を表現している。見事である。こんな素晴らしい先生に会っていたら、私ももっと上手い講評が書けるだろうと恥ずかしくなる。大朏さんの「なりたい大人」は伝えたいことを『言葉』で患者と家族に伝えられる救命医である。実に高い目標であるが、その高みを目指して精進してくれることを心から願っています。